創作小説
【麦の恋煩い】 生まれつき色素が薄い、と言われている。染めたわけでもないのに髪は茶色。生まれ持った瞳も薄い茶色だった。そんな私にいつの間にかつけられたあだ名が麦ちゃん。麦茶のような色だったからなのか、麦穂の色からだったのか、理由はすでに記憶…
【雨宿り】 春休みもあとわずか、新学期を目前に控え浮かれ緊張している友人たちを思うと哀れにもなる。きっと彼らは春休み中にあったあれこれを自慢したり、新しいあれこれが、などといった話を延々と聞かせてくるに違いない。 僕はといえば、わずかな休み…
【蒲公英の庭】 今日はお気に入りの原っぱ――僕はここを蒲公英(たんぽぽ)の庭と呼んでいるのだが――へやってきた。 ちなみに今日はアッシュブルーのTシャツにジーンズと白いスニーカーである。もう少し暑くなれば白いTシャツしか着なくなるモノクロ派な僕だ…
【桜幻想】 ひらり、ひらり、と白い花びらが舞う。 うすく色づいた桜の、なんと美しいことか。 僕は桜の木の下で何時間もぼうっと過ごすことが出来る。何も考えず、ただその美しさを目に焼き付けて、ひらひらと舞う花びらが自分につもって、そのまま埋もれて…