minaは余生を全力で楽しむことにした。

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創作小説【麦】

【麦の恋煩い】

 

生まれつき色素が薄い、と言われている。染めたわけでもないのに髪は茶色。生まれ持った瞳も薄い茶色だった。そんな私にいつの間にかつけられたあだ名が麦ちゃん。麦茶のような色だったからなのか、麦穂の色からだったのか、理由はすでに記憶の彼方だ。最初は自分も黒髪がいいなと思っていたから、あまり好んだあだ名ではなかったかもしれない。けれど今は、私はこのあだ名をまぁまぁ……そこそこ……ううん、正直に言おう、大いに気に入っている。

それは、私の好きな人が、いいな、と言って笑ってくれたからだ。いや、そう言ってくれた人だから好きになったのかもしれないのだけれど。一生懸命育っていく麦穂の美しさを、表情こそ変わらないけれど、淡々と、けれどとてもきらきらとした目で語って、だから僕は好きだよ、と言ってくれた。

 

そんな彼を、私は今日も見ている。

 

春休みが終わって学校が始まったとき、休みが終わったことを悲しむ人もいたけど、私にとって学校は彼を見つめることのできる最高の場所。

新学年からは授業を通じて声も聴けるようになったし、何なら実習とかで一緒に作業をすることさえ出来る。供給過多に未だ心が追い付いていない。

友人に何かを言われるたび、はいはい、とうんざりした表情で返事をする優しい彼に、今日も胸が躍ってしまう。

基本的に無表情な彼の、その実雄弁な瞳を、もう永遠に眺めていたい……

そんな私の邪な心に気づいたように、いつの間にやら目の前にいた友人に声をかけられた。

 

「麦ちゃん」

「え?」

 

あまりにも見つめすぎただろうか。呆れたような友人の呼びかけに、一拍遅れて返事を返すと、やれやれ仕方ないと言わんばかりの表情で彼女は首を振った。それから、にんまりとチャシャ猫のように笑って言われた言葉に、私の顔は熱くなり、もうその日はとても顔をあげることが出来なかった。

 

「恋煩い、ってやつだもんね」