minaは余生を全力で楽しむことにした。

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創作小説『僕の日々』①


【桜幻想】

 

ひらり、ひらり、と白い花びらが舞う。

うすく色づいた桜の、なんと美しいことか。

僕は桜の木の下で何時間もぼうっと過ごすことが出来る。何も考えず、ただその美しさを目に焼き付けて、ひらひらと舞う花びらが自分につもって、そのまま埋もれてしまいたいほどに、その花を愛している。

 

薄手の白いシャツに、ブルーのカーディガン、黒のチノパンにグレーのスニーカー。

普段はモノクロな僕は、桜に会いに行くときはきちんと色を纏う。そしてそんな色を纏った僕が花びらに埋もれるさまを夢想して笑うのだ。

 

そんな春のある日。僕は今日こそ花びらに埋もれてしまって外に出てくるのをやめようと思っていた。周りは春うららと華やかな装いに変わり、これから夏へ向けてうるさい友人が愛だ恋だと浮かれ狂う季節の流れに辟易したからだ。

ここにしよう、とお気に入りの桜の木の下であおむけになり、うとうとと瞼がおち始めた。なんとも心地よく抗いがたいまどろみの訪れに身を任せようというまさにその時、もし、もし、と小さな声が聞こえた。

瞼は完全に落ちてしまっており、こんな心地よいところに不躾な、と怒りさえ感じながらぼんやりとした声でなんだい、と応じた。瞼は開いてはくれず、その声の持ち主はわからない。けれどその声は、微かながら明瞭に自分に届くのである。

もし、宜しければ――と聞こえたところで、ふと何とも言えない心地の良い香りがした。つつましく華やかな、甘いような、爽やかなような。だから、くん、と鼻をひくつかせてしまったのだ。しかし、その行動に驚いたのか、声はそれっきり続きを紡ぐことなく霞のように消えてしまった。

大変残念な気持ちになり、しかしそんな気持ちになったことに不思議に思う。怒りさえ最初は沸いたというのに。

ああ、きっとあの香のせいだ。それともあの不思議な声音の……。

妙にそれらが気になり、僕は今日も完全に埋もれる前に体をおこし、桜の花びらをいくらかはらう。

そして、また明日、出直してみようと思いながら家路についたのだった。