minaは余生を全力で楽しむことにした。

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創作小説『僕の日々』②


【蒲公英の庭】

 

今日はお気に入りの原っぱ――僕はここを蒲公英(たんぽぽ)の庭と呼んでいるのだが――へやってきた。

ちなみに今日はアッシュブルーのTシャツにジーンズと白いスニーカーである。もう少し暑くなれば白いTシャツしか着なくなるモノクロ派な僕だが、この季節はどうしてもモノクロのほうが目立つ気がしてそうなれない。春の陽気の中で黒ずくめの自分を想像してやはり目立つ、と確信する。己を貫けず情けなくもあるが、僕は目立たず擬態して景色の一部に溶け込みたいので、これで良いのである。

さて、僕が庭を眺めに来たのには訳がある。冬の僕の努力がどれほど実ったのかを見届けるためである。木枯らしの季節にふわふわと丸い形を残し風に乗り切れなかった綿毛たちを、僕はむしっては飛ばし、むしっては飛ばしたのだ。

さあ、いざ、と庭を一望できる場所までやってくると、一面黄色く色づいていて何とも美しく、可愛らしい風情である。そんな庭で、きゃあ、と楽し気に笑いあう、幼稚園に通うくらいの子どもが二人、楽し気に走り回っている。蒲公英を採ってはお互いに贈りあったりしているのだろうか、何とも楽しそうだ。

花はそのままが美しいのだから、採ったりせずにそのままにしておきなさい、などど無粋にも話しかけられるものなら僕は桜に埋もれる幻想など抱かない。代わりに、また寒い季節がきたら誰もいない庭を駆け回り綿毛を飛ばしてやろうと心に決める。

よし、とゆっくり庭の中へ入り、蒲公英を眺める。遠くからみても、近くでみても、花というものは美しいのである。いかほどそのように過ごしたのか、いつのまにか座り込んでいた僕はゆっくりと立ち上がり、くらりとめまいを感じた。

そういえば、先ほどから子どもたちの笑い声も聞こえないような……そう思った時である。

「お兄さん、ありがとう。」

綺麗な鈴のようなユニゾン春一番にふかれ耳に入ってきた。あはは、と本当に楽しそうな笑い声とともに、いつまでも響いていくかのような、そんな声だった。

はて、僕はあの子たちに何かお礼を言われるようなことをしたのだろうか。もしかしたら、遊んでいた蒲公英を僕が増やしたのだと察してくれたのだろうか、などとおかしな考えが浮かんで笑ってしまう。あはは、と大げさに笑い声をあげて、その声が彼らの声と混ざって一緒に飛んで行けばいいと思った。

 

庭が赤く夕日に染まるころ、帰宅しようと考えてふと不思議に思う。

この庭は山中の変わったところにあり、今まで誰にも会ったことがなかったのに、あんな小さな子どもたちに会うなんて。